かわいいだけじゃない。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』がすばらしい理由

赤い座席と大きなスクリーンのある、誰もいない映画館

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2026年7月24日に公開された『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を観てきました。

正直に言えば、観る前は「かわいいキャラクターが動くのをながめるだけの映画」だと思っていました。その予想は、いい意味で完全に裏切られました。

原作・脚本はナガノさん本人。監督は及川啓さん、配給は東宝です。原作者が自ら脚本を手がけているだけあって、ちいかわという作品の芯にあるものが、まっすぐ画面に出ています。

「働くこと」がちゃんと描かれている

ちいかわの世界のキャラクターたちは、草むしりをしたり討伐に出たりして報酬を得ています。労働をして、お金をもらって、それでラーメンを食べる。この構造が、この作品の背骨になっています。

そして、努力すれば必ず報われるという描き方をしません。頑張っても望んだ結果にならないことがある。この容赦のなさが、現実の手ざわりを持っています。

だからこそ、働いて得た報酬でささやかにおいしいものを食べる場面が、ばかにできない輝きを放ちます。かわいい絵柄の下に、生活のリアリティが埋まっているのです。

善悪が、少しずつ揺らいでいく

映画の原作となっている「セイレーン編」は、ちいかわ史上でも最長の物語です。連載当時からSNSでさまざまな考察が飛び交っていました。

物語が進むにつれて、誰が正しく誰が間違っているのかが、簡単には決められなくなっていきます。最初に見えていた構図が、別の角度から光を当てられて違う形に見えてくる。村を舞台にしたホラーのような不気味さと奥行きが、静かに立ち上がってきます。

「かわいい映画だと思ったら」という感想が広がったのも、この構造ゆえでしょう。

歌が、言葉にできないものを運ぶ

ちいかわの物語では、歌が特別な役割を担っています。セリフでは言い切れない感情を、歌が運ぶのです。

原作では文字として描かれていた「島のうた」が、映画では初めて声と旋律を伴って響きます。これは映像化でしか成立しない体験でした。文字で読んでいたときに自分の中で鳴っていた音と、スクリーンから実際に聞こえてくる音が重なる瞬間があります。

声を担当しているみなさん

ちいかわ/青木遥さん、ハチワレ/田中誠人さん、うさぎ/小澤亜李さん、モモンガ/井口裕香さん、くりまんじゅう/淺井孝行さん、ラッコ/内田雄馬さん、シーサー/島袋美由利さん、そしてセイレーン/鈴木みのりさん。

おわりに

初日から満席の回が続出したと聞きます。それも納得の内容でした。

かわいいものが好きな人にも、物語の構造を読み解くのが好きな人にも届く映画です。ちいかわを知らなくても大丈夫。むしろ、何も知らずに観たほうが驚けるかもしれません。

まだ観ていない方は、できるだけ情報を入れずに劇場へ行くことをおすすめします。